以前、私はある市に住んでいた。住宅会社の支店長をやっていた。基地のすぐそばの町に6棟の建売住宅を計画した。飛び立つジェット機の騒音で会話もままならない場所だ。その計画にまわりの者はこぞって反対した。部下の営業社員たちも渋った。売れないのではないかと心配したのだ。

私には、ふるさとは住みたい場所、いまは帰れなくても忘れられない場所、という強い思いがあった。

チラシ広告に「いいとこみ〜つけた、○○町」とデカデカと大きく太くコピーを刷り込んで新聞朝刊に折り込んだ。まだ建築も始まっていないただの空き地での売り出しは、朝一番の現地受付開始後、わずか30分間で6棟すべてを完売した。営業担当者が現地に着いたときには新聞チラシを見た地元の人がすでに並んでいたという。

みんな言葉には出さないけど、自分が住んでいるところ(ふるさと)が好きなんだ、そこ(ふるさと)に、自分の好きな人を呼び寄せたいんだ、と、しみじみ思った。

ふるさと、基地、とくれば政治につながりそうだが、まったく関係ない。うれしいことが大事、わかりやすいことが大事だと思っている。